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ビルに修繕が必要な時、どのように会社を選べば良いでしょうか。
大規模修繕はもちろんの事、対応困難とされる漏水や臭気問題、外装や内装のリニューアル、など、そのビルの用途によって抱える多種多様な問題解決を年間約120件以上手がけている株式会社アドバンス・シティ・プランニング 銀座支店 一級建築士事務所(以下ACP)建築課の森峰係長にお話を伺いました。
―ビルの修繕をやっている業者を探そうとしてネットで検索すると「大規模修繕」の会社がずらっと出てきますけれど。
森峰:大規模修繕をメインに営業をされている会社は、受注数と営業利益確保のため工事実施までがルーティン化されており、とてもスムーズに工事計画が進捗します。ただ、ビル用途はマンション等が多いのが現状です。そのため、発注者が普段から気になっていて修繕したい部分があるが、インターネットで調査に来てもらった会社からは、やりやすい工事を推奨され依頼内容とのミスマッチが発生しているケースが多いです。
―ACP建築課では大規模修繕はもちろんのこと、もっと小規模な修繕や改修工事も含めて数多くの案件を手掛けているとのことですが、大規模修繕をメインにしている業者との違いはどんなところにあるとお考えですか。
森峰:私たちの強みは、様々な問題を抱える商業ビルを多く管理しているため、そこで発生する問題解決の場数を踏んでいる点です。
マンションの大規模計画の際も、その経験を生かし、現場調査を入念に実施してひとつひとつオーダーメイドで計画します。
大規模修繕工事では「タイル打診、落下防止対策、シーリング、鉄部塗装」等が定番メニューですが、私たちはそれに加え、例えばエントランスの庇が雨で汚れやすい状態になっているのを確認すれば、それを未解決のままにせず、庇にアルミ板金でカバーリングして水が切れる形状にして、修繕後も汚れが付着しにくく維持がしやすい修繕計画を提案します。
―オフィスビル・商業ビルを多く管理されているという事は、修繕提案は、日常茶飯事ということですか。
森峰:はい、特に築年数を経たオフィスビル・商業ビルの問題解決を、日常的に行っておりますので困難な事例が多いです。
―例えばどんな点が困難ですか?
森峰:例でいうと多くのビルが抱えている漏水問題です。
漏水箇所は様々で、一番多いのがサッシからの漏水で次に外壁、室内天井、屋根、地下室内での漏水があります。その他、地下で水が湧き出てくる湧水問題、浸入元不明の漏水と様々です。図面を読み込んだ後、現場調査で水みち、水の流れを頭の中で想像して、複数の要因をピックアップします。それを多方面からつぶす方法で止水します。
さらに難しい問題の中に臭気問題があります。
テナントから連絡があった臭気発生場所、タイミングをヒアリングの上、同様に図面を読み込み、原因を推測しその改善方法を提案します。
―テナントの内装工事やファサードのリニューアル、リノベーションなども建築課で行っているとのことですが、何となくデザイン系の要素が多いものと、漏水や外壁補修などを一緒の部署がやっているのが不思議な印象でした。他の会社も同じような体制なのでしょうか。それともわりと珍しいことでしょうか。
森峰:設備と建築が別部署である会社が多い中、ひとつの部署がすべての範囲を網羅して計画しているのは珍しいと思います。ですが、それは有効に機能している部分があります。
なぜなら、総合的な要因を勘案した問題解決をするためには、部分的な改修、修繕、補修であっても、その他の部位、また全体の関係性も勘案して工事計画する必要があるからです。
たとえば、内装工事だけ発注いただいて工事しても、ビル全体の設備にその工事の換気設備等が関係していた場合、私たちはそれについて今回工事で関係ないので知りません。という訳にはいかないのです。
そのため、before―afterが立派な内装工事をするときもあれば、天井を確認しての漏水調査やキッチン下をかがんでの臭気問題にも対応します。
―管理会社のACPの業務は本当に多岐に渡る印象ですけれど、その中でも建築課が手掛ける業務は断トツで範囲が広いですね。何かトラブルが発生するところからスタートするわけですよね。
森峰:そうですね。突発的なトラブルがあって、それに対応するだけでなく建物全体を見て、例えば外壁に異常がないかなど専門的な目線でチェックします。
―内容的にはどんなものが多いですか。
森峰:先ほどの話と重複しますが一番多いのは漏水ですね。ビル側の原因で漏水した場合、テナントさんにご迷惑をかけないように、まず受けキャッチパンというものを天井につけて応急的な処置をしておいて、それから漏水元の修繕を行うパターンが多いです。
至急の対応措置と、それに対する根本的解決を同時に進める点が少々バタバタします(笑)
―漏水の原因というのも色々なパターンがあるのですか。
森峰:単純な要因で漏水原因が分かればいいのですが、多くの場合は複合要因で漏水を引き起こしています。その漏水原因は一辺倒ではないので、漏水した部位が例えばサッシ廻りであれば、サッシ枠とサッシ障子の納まり・サッシと壁の取合い部から確認して、外壁がタイルであればそのタイルの裏側の水みち、その水みちへの浸入経路まで漏水パターンを想定して、止水対応を提案します。
―そういった例えば漏水の修繕に強い会社とそうでない場合の違いはどういうところに出てきますか。
森峰:それぞれのお考えがあると思いますので、一概には言えませんが、私は漏水に限らず建物の修繕に強い会社というのは、その計画にあたっている職員の知識レベルがひとつの指標だと考えています。
私は修繕計画にあたる為には、建築基準法遵守から設備の仕組みまで建築的一般常識が必須だと考えます。その建築的一般常識を習得するには、とても広い試験範囲で出題される建築士、施工管理技士等の国家資格試験で学習が最短ルートとなります。その建築的一般常識が有る無しで、施工計画に大きな差が出ます。建築的一般常識を積んだ上で、工事を重ねて経験を蓄積することが重要だと考えます。
非常に厳しい言い方になりますが、修繕の計画をする際に、経験だけで打合せをする方はすぐにわかります。逆に建築士等の有資格者は建築を体系的に学習していますので、どの部位の打合せになっても、それに関連する注意点が話に上がります。
学習をせずに経験だけで、施工計画、施工をする会社では、その部分だけ特化していてもその特化した部分でさえ、あやしいものになります。
―ACP建築課はその部分に自信があるという事ですか。
森峰:自信はあります。建築について今は、インターネットでも色々調べられますが、知識が断片的になってしまいます。基本をどこで覚えるかというと、やはり資格試験は避けられません。一級建築士や二級建築士、一級建築施工管理技士などは、「建物とは」「どういうふうに作られているか」「なぜこういうふうに作られているのか」「なぜこうしないといけないのか」といった基本的なことから詳細な部分まで広く徹底的に勉強します。
私は設備設計一級建築士も取得していますが、一定規模(階数3以上かつ床面積の合計5,000平方メートル超)の建築物の設備設計については、一級建築士は設備設計一級建築士に設備関係規定への適合性の確認を受けることが義務付けられています。
規模の大きい建築物では一級建築士にアドバイスする立場の資格で一級建築士よりもさらに具体的な内容、例えばエレベーターの構造など踏み込んだ内容まで勉強します。
―経験だけで工事計画をするとどういう問題が起こりますか。
森峰:例えばオーナーさんが発注する会社が屋上防水しかやっていない方だとした場合、オーナー様から「建具も直せますか」と言われると会社は「できます」って答えてしまうんですよね。でも自社ではできないから建具屋さんを呼んできて、その建具屋さんも経験だけでやってきた人で「こんな感じになります」というふうに提案するとします。
建築専門でないオーナー様の場合は、とりあえず安ければとOKしますけど実は法規的にNGが後から検査で判明し、やり直した結果、より高い費用を要した上に、中途半端な仕上がりなんていうことも実際おこりがちなのです。
この一連の流れで、問題となっているのは最初から最後までのやり取りの中で誰も法適合、正しい納まり、雨仕舞等を検討する人がいなかったことです。
そういうことにならないために、先に述べました建築的一般常識を知った人間が一人でもいれば、適正な指示ができ、オーナー様にも咀嚼して説明もできますので、そこが大きな違いだと思います。
―その他の問題はありますか。
森峰:あとは建築材料の選定も非常に重要です。
いつも使っている材料だからという理由で建築材料を選定している業者もありますが、それが工事のその部位に本当に適合しているのかは適正に判断しなければなりません。経験だけをもとに施工をしている業者は新しい建材の更新もされないので、そのあたりも差が出やすい部分かと考えます。新しい建材も次々開発されているので、私たちは頻繁に建材店に行って常に最新の情報を得るようにしています。
―お話を伺っているとある程度やるべきことが決まっている大規模修繕よりも漏水や臭気の問題の方が、対応する会社の力量に違いが出てきそうですね。
森峰:そうですね。臭気問題などは特に困難な場合が多く、解決できずに諦める人も多いです。ACP建築課では、まず図面を徹底的に読み込んで、周りの排気の環境も見て、あらかじめ色々な臭気の流れを想定します。
空気環境の負圧正圧、天井で排気口が開いてないかとか色々な要素を考え、また窓はどうなっているのか、いつも開けているのかなどのヒアリングも行います。ヒアリングも非常に重要です。
以前あったマンションのケースでは 入居者さんより「天井埋め込み型エアコンから臭います」という報告がありました。エアコンは外の空気が入ってくるわけではないです。(※換気機能付きのエアコンもあります)
ですので、外の臭気を伴う空気を室内に入れることはありません。ただ、唯一外気とつながっている部分があり、室内機の結露水を排水するドレン配管がそれに該当します。
そのドレン配管の先をずっと辿っていくと建物の敷地部分で汚水排水管とつながっていたのです。 それに加え、室内の排気量が多く負圧になっていたので、逆に排水管から臭気を伴う空気が引っ張られてきて、室内に放出してしまっていたのです。
この時も図面からそういう状態になっているのではないかと読み解いた上で、現地調査で確認しましたら、その状態になっていました。そこで接続されているドレン配管と排水配管を切り分けることで、長年解決していなかった臭気問題が解決されました。
―日々修繕の現場に出ていて感じるのはやはり図面をしっかり読み込む力が重要だということですね。
森峰:図面の読み込みは重要ですね。築年数が経っている建物では、現在と竣工図とで大きく違っている場合がありますが、それでもヒントになります。
話がそれますが私の前職は、築年数が経っているビルのリニューアルの計画と製作施工図作成する設計部で11年間従事しておりました。その設計部の時の経験もあって、外壁の構造やサッシ図面についても詳しい知識が身についたと自負しています。
一級建築士を取得し前職を退職しましたが、現職では資格を取得した上でさらに経験をたくさん積ませていただきまして、築年数が経っているビルのリニューアルに携わって合計18年が経ちました。
―図面がない状態で修繕依頼が来ることもありますか。
森峰:もちろんあります。そういう場合でも現地調査とヒアリングして、何かヒントがないか想像します。要件にもよりますが、例えば漏水であれば、仕上げ材から漏水を眺めていても解決できませんので、調査工事として、天井に点検口を開けて漏水部位を目視して、直接解決に向けて作業をします。平面図上で漏水位置を照合して原因を特定していくことになります。
―下準備や効率的な調査のためにもやはり図面は大切なんですね。
森峰:ものすごく大事です。つい先日も臭気の相談を受けましたが、排水管の臭い通気が開放されてしまっている状態を発見し是正を指南させていただきました。
臭気計でも現地を調査するのですが、状況をヒアリングしてあたりをつけたら、まずは図面をとにかく読み込みます。全体を見てどういう配管経路になっているか、系統図から詳細図まで排水、通気、消火栓はどうなっているのか等を確認します。その上でこういう状態になっているのではないかと推測し、現地を直接調査して原因を確かめて直すという流れです。臭気計は使いますが、あくまでも補助的な道具という位置づけですね。
臭気問題は色々な要素が組み合わさって発生するので、きちんと解決できない業者も多いです。実際私たちが対応しても本当に難しくて大変なのですが、あきらめずに徹底して対応すればオーナー様からの「ACPに頼めば大丈夫」という信頼に繋がります。
―修繕工事は毎回違う問題があって大変ですね。
森峰:商業ビル、マンションにかかわらず建物ごとに「こうした方がいい」という個性があるんです。オーナー様の要望を踏まえた上で、建築専門の立場でこのビルに対しては、この部分を修繕した方がいいという提案をします。前回修繕してから何年経ったからやりますといった一辺倒ではなく、オーダーメイドの修繕ができるのが強みだと思います。
臭気問題を解決したビルのオーナー様には「きちんと説明してくれて、いろんなパターンを想定した上で提案してくれた」とおっしゃっていただきました。
オーナー様に付加価値を感じていただいて、ACPに頼んでよかったと思ってもらう仕事を心がけています。
―どんなビルでもトラブルと全く無縁ということはまずありませんから、やはり建物の構造をしっかり理解して適正な工事の提案を行う会社がビルオーナー様からの信頼に繋がるわけですね。今日はありがとうございました。