投稿日:2020年12月14日

テレワーク時代の「クリエイティブオフィス3.0」を脳科学的に考える

カテゴリその他

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1.はじめに

2007年に経済産業省を中心に推進されてきた「クリエイティブ・オフィス」ですが、こうした新しいオフィスのあり方に関連して、ICT技術の急速な進化に伴うテレワークの拡大等、多様でクリエイティブなワークプレイス形態を追求する時代を「オフィス3.0」と表するケースがあります。

そうした中で、一部企業が行っていたテレワークがコロナ禍によって大多数の企業で日常化するというパラダイムシフトが起きました。

 

一方で、この間に脳科学の進展により、クリエイエティブなアイデアのヒラメキに関する脳の仕組みについても解明されつつあるという情報もあります。そこで、アフターコロナを見据えてテレワークが恒常化する時代の多様なワークプレイスの形態である「クリエイティブオフィス」のあり方について、脳科学の視点からの考察を加えつつ、知識創造や感性価値を創造するために必要な「ワークプレイス=働く場」の要素は何かを考えてみたいと思います。

(脳科学に関する情報は研究途上の仮説だったり、最終結論も筆者の独自視点による部分がある点をご了承下さい。)

 

1 | 「クリエイティブ・オフィス」とは?

「クリエイティブ・オフィス」とは、2007年に「知識創造行動を促して企業の創造性、生産性を向上させるための働く場」として経済産業省を中心に推奨されてきた概念です。

この背景には、グローバル競争の激しい時代に、資源の乏しい日本企業が生き残っていくためには、「GAFA」に代表されるような「知的創造性」を武器とした企業が多く生まれていく必要があるのではないか、という問題意識が政財界全体で高まり、従来の日本の高い技術力だけでなく、そこに「感性価値」を加えることで、多様な消費者ニーズに真にマッチした商品やサービスを開発、提供していく「感性価値創造企業」を目指そう、という流れが産業界全体で生まれたことがあります。

そして、この「感性価値創造企業」を目指すための「ワークプレイス」のあり方についての提言が「クリエイエティブ・オフィス」です。

 

2| 「オフィス3.0」とは?

2012年に独立行政法人労働政策研究・研修機構が発刊したレポート、日本労働研究雑誌「知識創造のワークプレイスデザイン」には、以下のような「オフィス3.0」というワードを使った記述があります。(「オフィス1.0」と「オフィス2.0」については、同レポートをご参照下さい。)

コロナ禍よりも8年も前に書かれたにもかかわらず、つい最近書かれたかのような、テレワーク時代を見越したこれからの「知的創造のための多様なオフィス」に関するレポートになっており、先見の明に溢れた内容です。

 

「21 世紀に入り,われわれは再び新たな変化のなかにある。その大きな変化は知識社会経済への変化である。ではこれからのオフィス 3.0 の時代はどうなるのか?ドラッカーが洞察したように,現代は知識社会・経済,すなわち多様な人々のネットワークによって形成される「組織社会」(the society of organizations)である。知識社会とは無形の知識資産が価値の源泉となる経済である。21 世紀の経営はたとえ製造業であっても,知識をベースにした経営を行わなければならなくなっている。サービス業も同様である。そこでは,必然的にワークプレイスやオフィスも影響を受ける。」

(「知識創造のワークプレイスデザイン-ネットワークが職場時代のイノベーションの場」~独立行政法人労働政策研究・研修機構の日本労働研究雑誌:多摩大学:紺野登教授、コーネル大学:華穎助教授の共著論文、47ページより引用)

 

さらに「知識創造のワークプレイス」として「いわゆる管理部門の集中した本社の時代の終焉が来る。また、オフィスはコストのかかる(-)ファシリティから利益(知識)を生む(+)場へと位置づけを変える。(同レポート56ページより引用)」とされています。

 

以上のように、「オフィス3.0※」とは、コスト・ファシリティではなく、また単に「快適なオフィス」を追求する時代でもなく、これからのテレワーク時代の多様なオフィス形態を前提とした「クリエイティブ・オフィス=知識という利益を生む場(「空間(space)」というよりも「場」(place)」のイメージ)」のあり方を追求する時代ということです。

そういう意味ではこれからの新しい「オフィス」を考える際には「ワークプレイス」という言葉の意味が重要になると言えるでしょう。

 

※「3.0」の表記の意味

「2.0」とか「3.0」というバージョン的数値を付ける場合は「時代」の進化を示すことが一般的であり、上記レポートでも「時代」という意味で使われているものと読み取れます。これに準じて、以下では「クリエイティブオフィス」のように「3.0」がない場合は、「オフィスの形態」を表す言葉として、一方の「オフィス3.0」のように「3.0」をつけた言葉は「時代」的な意味で使い分けます。

 

2.知識創造が生まれる脳科学的必然とは?

1 | 「偶然の発見」は偶然ではない?

そもそも「クリエイティブ・オフィス」が本当にクリエイティブな環境であるための科学的な条件とは何でしょうか?

 

例えば、「斬新なアイデア」「ヒラメキ」が生まれやすい条件は何か、という点にスポットを当ててみると、古代ギリシア時代のアルキメデスの風呂場での物理学の原理の発見の逸話等にみられるように、今までは何となく「ヒラメキは本来の仕事中ではない場所や時間に、偶然に発生することが多い」という経験則的な認識はありましたが、それがなぜなのか、たまたまの話が大袈裟な逸話になっているだけなのではないか、といった疑問もありました。

 

こうした「ヒラメキ」に関する話は、現代でも多くの芸術家や学者、成功した経営者等が同じようなことを話すので、科学的根拠はよくわからないまでも、何か本業の仕事に打ち込んでいる時ではない状況で「突然に思いつきやすい」もの、というイメージは古くから皆が感じてきたことでした。

しかし、脳の働きの科学的解明が進むにつれて、こうした知的創造性の「ヒラメキ」が起きる状態が、なぜ「リラックスした状態の中で突然生まれやすいのか?」という経験則だけで感じてきたことが、脳科学的に証明できそうなところまで近づいているのです。

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2 | 脳科学的な「ヒラメキ」の瞬間と正体

(1)リラックス状態でも脳は無意識に活動している!?

現代の脳科学では、脳内の電気信号の発生と流れを実際に検知し、そのデータで仮設を立てるところまで進歩しており、まだまだ未解明の謎も多いとはいえ、科学的根拠のない経験則による仮説の域を超えた科学的真実に近づいています。

そこで最近放送された脳科学に関するTV番組(NHKスぺシャル「人体」等)で紹介された内容の一つをご紹介します。

 

誰もが、特に仕事に集中していない、いわば「リラックス」しているときに、なぜか突然いいアイデア「ひらめく」という理由を脳科学の手法で調査してみた中でわかってきたことが、「無意識」の脳の活動です。

 

脳科学の最新の研究によると、「ボーっとしているとき」に実は脳のある部分(=海馬)が活発に活動しているらしく、その脳の無意識で待機している状態を「デフォルト・モード・ネットワーク」というそうです。

これは、「デフォルトモード」という名前の通り、「具体的なことを集中して考えていない状態」ですが、全く脳が活動を休んでいるのとは違い、車に例えるとアイドリングのように、すぐにスタートできるような状態と考えるとわかりやすいでしょう。

つまり「脳のデフォルトモード」とは自分では「ボーッとしている」ようでも、無意識のうちに海馬が活発にかなりの脳のエネルギーを消費して働いてくれているのだそうです。

 

(2)無知ではいいアイデアは浮かばない!?

この「ヒラメキ」の正体は、「クリエイティブ・エンジン」とも言える「海馬」の働きの可能性が高いようですが、しかし実はいいアイデアが生まれるためには、もう一つ大事な条件があるといいます。

そのもう一つの条件が「脳内の大脳皮質に蓄えられた無数で多様な記憶の断片」です。

つまり、リラックスした状態でいいアイデアが生まれる「ヒラメキ」の正体とは「脳内に散りばめられた無数の記憶の断片」を、「海馬」が無意識のうちにつなぎ合わせて脳内ネットワークの中で稲妻のように電気信号が駆け巡った瞬間に生まれるのではないか、ということです。

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クリエイティブな発想というのは「無から有を生み出すこと」だと考えがちですが、これが本当なら「無知からは有は生まれない」のではないか、とも言えそうです。

 

世界の企業経営者達が、「アート=芸術」の造詣を深めるために、美術館等を巡ったりクラシックコンサートに出かけたりといったことも重要な経験として重視していると言われていますがは、これは、エグゼクティブな役職を目ざすエリート、セレブのたしなみ、というよりも、実は脳科学的にみて、これからの時代に必要な白か黒かだけでスッキリと判断できないような難しい経営課題にも対処できる経営能力を養うため、という意味合いが強いのではないでしょうか。

 

このように、「多様な記憶の断片」こそがクリエイティブなヒラメキエンジンの燃料ともいえる、もう一つの大事な要素と言えそうです。

 

 

3.GAFAの事例から学べる共通点

脳科学の面からは「ヒラメキ」に必要なのは、ボーっとできる「リラックス空間や時間」だとして、従来から一般的に言われてきた「社員同士がコラボレーションしやすい環境」についてはどうなのでしょうか?


これについては、まず日本が「感性価値創造企業」の必要性を感じたきっかけのひとつなり、参考にしたであろう世界的IT企業の事例として、「GAFA」と呼ばれる企業のうち、アップルのスティーブジョブスやグーグルにまつわるオフィスの逸話や実例から考えてみました。

 

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(室内アイテム次第で「遊び心のあるオフィス」にできなくもありませんが…企業の価値観の問題です。室内実写と家具等CG合成:2010年制作画像)

 

1| ガレージで起業したのは本当か?

S.ジョブスにまつわる話で有名なのが「ガレージ」で起業した、という逸話です。

 

しかし、アップルの共同創業者であるS・ウォズニアックによれば「ガレージでAppleの開発を行ったというのは作り話であり、完成した製品を運びこんで動作確認をし販売店へ車で運ぶのに使っていただけ」と語っているように、S.ジョブスの「パーソナルコンピュータの基盤を作って売る」という事業着想タイミングや実際のクリエイティブワークはガレージを借りる以前のようです。

 

Appleコンピュータがガレージで開発されたかどうかは別として、大事なことは、場所がどこであろうと、製品開発と販売に突っ走るような強烈なクリエイティブマインド、モチベーションと、それを集中して実現できるオフィス代わりの比較的自由に使える何処かの空間が不可欠であったということでしょう。

 

2| ヴァーチャル・ツアー~ガレージから巨大本社ビルへ

グーグルもガレージから起業したと言われていますが、実際に創業者二人が創業した場所はスタンフォード大学の寮の部屋だったようです。

しかし、スタートアップ時には実際にそこをオフィスとして利用していたということなので、製品の工房や倉庫的に使っていたアップルよりは本当に「クリエイティブ・オフィス」っぽい事例として参考になるかもしれません。

 

一方で、今や本当に「クリエィティブオフィスの事例」として紹介されることの多いグーグルの「グーグルプレックス」と呼ばれる本社ビルですが、こちらは、既に成功して巨額の資金を使えるようになって以降の成功者のビルなので、資金力のないベンチャー企業には参考になりづらいかもですが、幸いにして、Google Mapの中で、本社ビルだけでなく、ガレージも簡単にヴァーチャルツアーができますので、ご紹介しておきます。

 

まずは、グーグルプレックスにつながった、創業の地である「ガレージ」を覗いてみてください。

このガレージは、グーグルが同社の「現存する遺産」の1つとするために所有者から買い取って公開しているので、当時の状況を再現した様々なアイテム、インテリアを見ることができます。

 

 

 

そして、グーグルプレックスがこちら。ガレージからここまで来たか!という感じです。

 

この本社ビルはもともとはシリコングラフィックスの本社を買収して改装したもので「リラックスしやすいオープンなオフィス」として、またマイクロソフト本社が大学の「キャンパス」を意識した設計に対して、Googleplexは「ブティックホテル」を意識した「街の広場」のようなイメージで設計されているそうです。

 

 

 

しかし、このコロナ禍の1年はGoogleも含めてGAFAの大きな本社ビルもテレワークで社員の出社は減っているはずです。これから、アフターコロナの時代を見据えて、彼らのオフィスがどのような形態を取るのか興味深いところです。

3| 新時代のワークプレイスに必要な3要素とは?~リラックス✕出会い✕集中

グーグル本社の事例では「社員の偶然の出会い」による「ひらめき」を生みやすい空間の実例を実際に見ることができましたが、それ以外に、もうひとつの重要な要件として「集中する」ための空間も必要と思われます。

 

従来のオフィスは集団で規律よくデスクワークをするための制約と暗黙の慣習的ルールが多く存在します。

しかし、実際に成功したGAFAのような企業の成功までの過程を見ると、そうした整然とした制約のあるオフィスよりも、比較的、社員が自由に使える環境を整えている部分が見受けられます。

 

つまり、最初の「ヒラメキ」があったとしても、それだけではビジネスにまで昇華できないため、そこからは無数の小さなアイデアの連続によるトライアンドエラーを繰り返して課題を解決していくという執念のようなモチベーションを最大限に発揮できる、つまりある意味、自分だけの世界に「集中する」という比較的、自由な「場」が必要と言うことでしょう。

 

こうしてみると、知的創造性を誘発して、そこからビジネスモデルにまで仕上げるために必要な「場」とは、①リラックスできる「場」、②偶然の出会いが生まれるコミュニケーションの「場」、③自由に集中できる「場」、という3つの異なる「場」の全てが有機的につながったトータルな環境なのではないか、ということが考えられます。

 

4.デザイナーズオフィス or サードプレイス?

1| オフィスがクリエイティブではなかった歴史的背景

旧来のオフィス環境というものは、歴史的にみると以下の3つの目的で発展してきたホワイトカラーのワークプレイスです。

 

①一つのことに集中して正確に効率よく働いてもらうための作業場的デスクの集合場所

②同じ業務を行う社員同士が効率よく連携できる場所

③管理者が社内を一目で監視、監督するための場所

 

このように、私たちが「オフィスというものはこういうものが当たり前」と思ってきたノーマルなオフィスも、時代背景とその目的により形づくられてきたに過ぎません。つまり、古い常識にとらわれずに時代の変化に合わせてどんどん新しい形を模索していくのがオフィス本来の姿なのです。

 

2| 「デザイナーズオフィス」との違いは?

クリエイティブオフィスとよく混同しがちなのが不動産業界用語で使われる「デザイナーズオフィス」です。

 

そもそも、「デザイナーズ物件」の語源は「建築家のコンセプチュアルな建物」という意味でしたが、外観デザインとかに厳密な基準がなく、またクリエイティブオフィスのような明確な定義のようなものもないため、今では、内装デザインがコンクリート打ち放しだったり天井が剥き出しだったりといった一般的な内装と異なる物件まで総称して広義の意味で「デザイナーズ」と呼ぶような使われ方をしています。

 

「クリエイティブオフィス」は感性価値創造という目的のオフィスですが、「デザイナーズオフィス」はその目的がどうかよりも、見た目のデザインで区別する用語であり同義ではありません。

 

しかし、上記のように不動産業界用語のカテゴリの意味でいえば、旧来の画一的な内装デザインではない見た目であれば「デザイナーズオフィス」と表示するケースはあります。

 

いずれにしても、見た目のデザインをあり触れた普通のオフィスと違うものにしている理由が、そこで働く社員に「常識にとらわれずに感性に響く商品やサービスを生み出そう」といった「感性価値創造」の目的を込めたものであれば、それもクリエイティブオフィスの一つの方法ということは言えるでしょう。

 

3| サードプレイスはクリエイティブな環境なのか?

最近のコロナ禍の中でのテレワークの影響でコワーキングスペース等の「サードプレイス」が脚光を浴びています。

 

これらはコロナ以前からインターネットとノートパソコンといったICTの進展を背景に、既存のオフィスの場所にとらわれずに働けるリモートワークという新しい働き方の一つとして増加していたものですが、こうしたサードプレイスのような形態はクリエイティブオフィスとはどのような関係になるのでしょうか?

 

サードプレイス=カフェとは限りませんが、よく見かけるカフェを併設したコワーキングスペース等の原型は、17世紀から18世紀にかけてイギリスで流行した、社交場を兼ねた喫茶店である「コーヒーハウス」にあります。

 

コーヒーハウスは「多様な人との偶然の出会いや交流」が当時のビジネスに役立ったという背景がありますので、サードプレイスも社外の人との交流も可能なリモートワーク用のオフィスと考えれば、クリエイティブオフィスの要素を備えていると言ってもいいでしょう。

 

また、情報交換の場というだけでなく「コーヒーハウス」的なカフェ等のサードプレイスの方が通常のオフィスよりもリラックスできる、という人も多いかもしれません。

 

そういう効果を狙ったであろうサードプレイス的施設を豊富に備えたグーグルプレックスのような大規模ビルやオフィスが持てない中小企業の場合は、オフィス全体を改装せずに一部区画だけにサードプレイス的空間を設けたり、外部のサードプレイスの利用を上手く組み合わせるといったことも、これからの時代の選択肢のひとつになる可能性があります。

4| テレワーク時代はオフィスは不要になるのか?

多くの企業がコロナ禍の中で在宅勤務を恒常化させてみてわかったことが、今の時代のICT技術でネットワーク環境を整えれば「ホワイトカラー」の仕事はどこでもできる、ということと、気がつけば、そうした環境は先進的で資金力ある大企業でなくとも、昔ほどのコスト※をかけずに構築できる、ということでしょう。

(※恒常的なテレワーク体制へ移行するに際しては、ネットワークの通信速度や情報セキュリティにどこまでのコストをかけられるか、といった問題は今後、一層クローズアップされてくるとは思いますが。)

 

そうした中では、オフィスはもはや不要ではないか、といった考え方の企業も出現していますが、その一方で、いち早く全社的にテレワーク体制を導入したにもかかわらず、そのデメリットを感じたために、再びテレワークを中止して全員出社のオフィス環境に戻した企業もあります。

 

こうした企業の事例では、社員同士が直接向かい合うコミュニケーションでしか得られない何かを感じたため、テレワークの恒常化はデメリットの方が大きいと感じた、というのが例えばの理由のようです。

それ以外にも、コロナ禍での応急措置な在宅勤務の結果、社員の住宅事情や家庭環境、ネットワーク環境の問題等、解決すべきいくつかの課題がわかってきたこともあります。

 

「社員の偶然の出会い」による偶発的なアイデアの誘発という環境は、パソコンやスマホを通じたリモート環境でも一見可能に感じますが、実際に合って交流する環境と効果が全く同じかどうか、となると、「やはり何かが違う」と多くの人が感じることかもしれません。

 

自分のデスクから出て、ビル内を歩いているときに偶然出会った際の何気ない会話と、「ちょっと暇ができたから、これからリモートで雑談でもしようか」という効果の違いを重視する企業であれば、「テレワークの時代であっても、何らかの形で社員が集まれるオフィスは必要」という経営判断に至るでしょう。

 

しかし、多くの企業がこうした「オフィスは必要」という従来通りの結論になるとしても、「オフィス3.0」の時代にあっては、多かれ少なかれ、あるいは、遅かれ早かれ「時間をかけて通勤し社員が集まるオフィスでしかできない仕事は何か?」というテーマと対峙してオフィス環境を変えていかざる得なくなるはずです。

 

また、オフィスの多様性のみならず、社員の価値観や個性の多様性を積極的に受け入れる「ダイバーシティ」の概念を一歩進めて、それをさらに有機的に交流させる「インクルージョン」という経営の重要さが高まる中では、価値観の異なる社員同士の「反目や溝」といった問題にどう対処するかの人事政策もクローズアップされて、オフィスの有無やテレワーク環境が「インクルージョン」にどのような影響があるのかを考えていく必要も出てくるでしょう。

 

日本では「オフィス=事務所」とされていますが、「事務的」という言葉があるように、「事務=型通りの作業」をイメージさせる言葉です。

そういう意味では最低限必要な面積としての「事務所」はなくなりはしないけれども、その必要な「空間=面積」はどんどん縮小し「知的創造性を生み出す場」としての「ワークプレイス」に形を変えていくのではないでしょうか?

 

そして、パソコンで完結する「事務作業」も、セキュリティとネットワーク速度の問題が解決されれば、旧来型の「事務所」は必ずしも必要ではなくなることも、このコロナ禍でわかったことです。

 

つまり、不動産業的に言えばこれからの「ワークプレイス」の在り方=「オフィス3.0」を意識して空室対策を打っていかないと「旧態然とした事務所=オフィス」の稼働率はどんどん下がっていく可能性があるということです。

 

5.多様性の時代の多様なワークプレイス

1| ビジネスは「ひらめく」だけでは成功しない

ここまでみてきたように「クリエイティブ・オフィス」が知的創造性を発揮する環境であるためには、インテリアのデザインだけで定義すべきものでもないし、旧来のオフィスにはないような設備を整えればいい、というものでもありません。

 

この中で必要とされているのは「社員の偶然の出会い」や多種多様な「知的好奇心」を誘発するという、いわば「ヒラメキ」と「多くの多様な情報」を創出する仕掛けですが、そこには一定の脳科学的な合理性があるらしい、ということがわかってきました。

 

一方で成功企業のオフィスの変遷を見ると、こうした「ヒラメキ」だけでビジネスが成功したのではなく、そのアイデアをビジネスにする過程で必要となる無数の小さなクリエイティブワークを集中力をもってやり遂げることができる環境、例えば、自宅や寮の部屋、その後の「ガレージ」のような「自由に集中できる場」も必要だったということです。

 

そして、GAFAのような成功企業は、創業者の成功過程を、さらに全ての社員が共有できて相乗効果が発揮できるような、社員の偶然の出会いや、リラックスできる場と、この自由に集中できる場をクロスさせたオフィス環境のもとで、終わりなき「創業ビジョンの追及(おそらく彼らにとっては「成長の追及」ではないことが重要)」を目指しています。

 

 

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2| クリエイティブ・オフィス3.0

最後になりますが、多様な形態のオフィスが考えられるこれからの時代のオフィスを「3.0」というケースに倣って、クリエイティブオフィスの時代も下記のように分けてみました。

 

①クリエイティブオフィス1.0=明確な定義はない中で一部のIT系企業等が「デザイナーズオフィス」を追求した時代。

②クリエイティブオフィス2.0=知的創造性を重視した「クリエイティブオフィス」が推奨され先進的企業等が取組んできたコロナ以前の時代。

③クリエイティブオフィス3.0=テレワーク等の多様なオフィス形態を前提とした「オフィス3.0※」が、コロナ禍により全産業で本格化、恒常化する時代。

 

(※コロナ以前の「オフィス3.0」=「クリエイティブオフィス2.0」、コロナ以降の「オフィス3.0」=「クリエイティブオフィス3.0」、ということで、時代を先取りしていた「オフィス3.0」の概念そのものはコロナの前後で同じです。)

 

「クリエイティブオフィス3.0」の時代は、社員全員が常に一ヵ所に集まるという前提だけではない、多様なワークプレイス環境を考える必要が出てきますが、一方ではこの要素を3つの「場=place」で分けて脳科学的に考えてみると、実は必ずしも社員を一ヵ所に集める必要のないワークプレイスがあることに気づきます。

 

このように多様性が一気に進む「3.0」の時代は、「2.0」の時代よりも選択肢が増えたことによる「迷い」が増える一方で、やり方次第で従来以上に効果的なクリエイティブオフィスを創れる可能性が高まった時代と捉えるべきかもしれません。

 

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6.まとめ

1|3つの「場」の匙加減

以上のように、「オフィス3.0」とは、「多様性の時代におけるクリエイティブ・オフィス」を追求する時代ということですが、その創造性を発揮するために有効な環境は、脳科学的にも解明されつつあります。

 

まず、知的創造性を発揮しやすいクリエイティブなオフィスとは、具体的には下記の異なる3つの「場=place」を相互に回遊できるようなワークプレイスなのでないかと考えられます。

 

①リラックスできる「場」~アイデア、ヒラメキを生みやすい場所や仕組み

②コミュニケーションが生まれやすい「場」~社員の偶然の出会い等で多様な情報が交錯する場所や仕組み

③自由に集中できる「場」~アイデアからビジネスへの昇華を行うまで自由に集中できる場所や仕組み

 

さらに、これからの「オフィス3.0」の時代は、利便性の高い都心に全社員を集約するようなオフィスだけでなく、ICT技術を活用したテレワークやサードプレイス等を含めた「多様な働き方」、またサテライトオフィスのように分散したり、本社を地方に移転するような多様な場所の選択というオフィス形態そのものの選択肢も広がっており、従来以上に自社にマッチするオフィスのあり方に迷う時代でもあります。

こうした多様な選択肢が増えた時代の「クリエイティブオフィス」のあり方に迷った時には、脳科学的な根拠と仕組がその道標になるかもしれません。

 

全産業的にネットワークをベースとした多様な知識創造の「場」の追求が求められる「オフィス3.0」の時代においては、こうした3つの「場」をクロスさせる「匙加減」を追求していくことが、他社の表面的な真似ではなく、真に自社にマッチした「クリエティブ・オフィス」を構築することにつながるはずです。

 

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2| あなたのオフイスの「魂」は何ですか?

さて、ここまでお読みいただいておきながら、ふと自分が書いたこの記事を読み返すと、どこまでクリエイティブな内容なのか「長いわりにこれといった目新しい情報はないではないか」というご指摘を受けそうですが、クリエイティブオフィスのあり方を「森から見て本質を見極める」ために、関連する重要な概念やワードを広く浅く集めたために散漫な内容になったとは思います。(どちらでもよさそうな何気ないワード、例えばGAFAが追求するものは「成長」ではなく「創業ビジョン」である、といった大事なポイントにはこだわったつもりですが。)

 

しかし、脳科学的には大脳内の無数の既知の情報の組みあわせから何かを生み出したり、他の人がまだ気づいていない本質的な何かを見つけたりすることが「ヒラメキ」の正体ということですから、この記事だけのオリジナルだったり、深く掘り下げた情報はありませんが、こうした網羅的な情報の断片をもとに考察した内容が、皆様のオフィス探しや空間づくりの「ヒラメキ」の一助になれば幸いです。

 

なお、ここまでクリエイティブオフィスのことを書いておきながら自己否定するようですが、GAFAと呼ばれる巨大な成功企業は、これまでの間でどこかのオフィスを「感性価値を創造」するための「クリエイティブオフィス」にしようと思ったタイミングがあったのでしょうか?

結果的に成功してオフィスに多額の資金を投下できるようになって作った今の本社ビルは、確かに「リラックス」できたり「社員の偶然のコミュニケーション」が生れやすいといった「クリエイティブオフィス」のお手本のような環境なのでしょうが、それだけでGAFAのように成功できる、という訳ではないことくらいは誰もが思うことでしょう。

 

例えば、S.ジョブスがゲーム基盤を改良するために社員ではないウォズニアックを招き入れて作業ができたというジョブスが在籍した「アタリ社」のオフィスは、比較的自由でクリエイティブなオフィスではなかったかと想像されますが、「アタリ」は「アップル」にはなっていません。

また、天才S.ジョブスやビル・ゲイツのような成功者と言えども、成功しなかったビジネスもあるように、GAFAの今の本社やオフィスが、そのまま「神の領域にある非の打ち所がないワークプレイス」であるとは限りません。

 

結局のところ、後付けの分析で参考になることはあるにしても、実際に成功している企業にとっては、創業者のビジョンの実現のために、その都度、自分たちで考えて、現実的に可能な選択をし、そこを自分たちが使いやすいように「自由(=常識や周りの慣習等にとらわれずに)」に使って突き進んできただけではないでしょうか。

つまり、成功者に学ぶべきところは、目に見えやすい表面的なことや成功談だけではなく、彼らの失敗も含めた、その深いところにある彼らのクリエイティブな価値観と思考と行動スタイルです。そうした「本質を見抜く洞察力と常識にとらわれない柔軟な思考力」なしでは、どんなオフィスを作ろうと「仏作って魂入れず」となりかねないでしょう。

 

3| 編集後記~最後に"ダリの名言"を

最後にサルバドール・ダリの名言をひとつ。

"Those who do not want to imitate anything, produce nothing."~「何も真似したがらない人々は、何も生み出さない」

 

つまり、日本語の「学ぶ」という言葉は「真似ぶ」が語源だということ、そして「クリエイティブ」とは「本質を見抜くという真似(学)び」の中から、いかに「オリジナルな新しい価値を生み出すか」というモチベーションを伴った「創造的思考」ではないでしょうか。

 

この記事を書いた人

C+One 編集長(北辰不動産株式会社)

不動産投資、ビル管理、設計、大規模修繕など不動産に関する総合情報を分かりやすい形で提供しています。