2022年07月28日

不動産を個人名義から法人名義へ移すメリットと注意点

「節税するために個人名義で所有している不動産を法人名義に移したい」
そう思ったことはありませんか?
確かに個人名義の不動産を法人に名義変更することで節税の効果がある場合もあります。

ただし、法人ならではのコストや手間などデメリットもあります。

今回は不動産を個人名義から法人名義に移すことで得られるメリットと注意点について解説します。

 

贈与税

不動産を個人から法人に移す方法

①贈与 贈与税に注意

不動産を個人から法人に移す手段の一つとして、個人の不動産を法人へ贈与する方法があります。

 

これは自分(個人)が持つ不動産を法人へ贈与することで、後述の売買や現物出資と比べるとやり方もわかりやすい方法です。

 

主な流れは、


  • ・利益相反承認決議
    ・贈与契約
  • ・不動産登記

 

の3つで、特に法人と法人代表者間(個人)は、利益相反関係(片方が利益になるときに、もう片方が不利益になること)になるため、利益相反の承認決議が必要になります。また、贈与となると、「贈与税」が発生します。

 

贈与税は110万円までは控除の関係で税金がかかりませんが、不動産においては取引の金額が数千万円から億単位と高額になることも多く、それに伴って贈与税も高額になることが多くみられます。
例えば、5000万円の不動産を個人から法人へ贈与した場合、税率は最大の55%となり、2300万円近くの贈与税が発生することになります。

 

一番手軽な方法ではありますが、結果的に節税できた金額よりも贈与税が高額になってしまったという可能性もあるので、用いるのが現実的には難しい方法です。

参照

 

②売買 売買価格に注意

二つ目の手段は、個人で所有している不動産を法人が買い取る方法です。

 

個人で所有している不動産をその人が経営する法人で買い取るパターンが多いため、売却の価格は明確な基準がなく取引できます。

ただし、極端に安い金額で売買するなどした場合、税務署が監査などに入り、適正価格との差額は贈与とみなされて贈与税を払わなければならなくなった、ということも起こりえます。

売買はあくまで適正価格で行っていく必要があります。

 

売買にあたってやること、手続きとしては、

 

  • ・利益相反承認決議
  • ・売買契約
  • ・不動産登記

 

の3つで、贈与と同じく、利益相反の承認決議が必要になります。

また、形式上は通常の売買にあたるため、譲渡所得税や不動産取得税も発生します。譲渡所得税の税率は所有年数によって15%と30%に分かれますが、どちらの場合も多額の納税費用が発生することになります。

参照

 

③現物出資 手間とコストがかかる

3つ目の手段は現物出資。法人の代表者(個人)が金銭(資本金)の代わりに不動産を出資する方法です。

 

不動産を現物出資することで、不動産の所有権が個人から法人に変わるため現物出資を原因とする不動産の名義変更ができます。

 

主な手続きとしては、

 

  • ・不動産鑑定評価
  • ・税理士の証明
  • ・不動産登記
  • ・商業登記

 

で、特に不動産鑑定評価については「不動産鑑定士」という国家資格を持つ専門家に依頼するのが一般的で、費用の相場は20万円から30万円と言われています。

 

不動産鑑定評価を行わずに現物出資をすることも可能ですが、裁判所による調査が入ることもあり、その際に再度申請のやり直しなどに時間や費用が掛かるリスクがあります。不動産鑑定評価は事前に行っておくと良いでしょう。

 

また商業登記については現物出資をすることで資本金の増資にもなるため、それに伴う登記も必要になります。

商業登記は司法書士に依頼することになり、司法書士への依頼料も発生します。

 

このように贈与や売買と比べると現物出資は手間がかかり、不動産鑑定士や税理士、司法書士などの手続き費用は多くかかりますが、他の方法のネックである税金は一番抑えられる可能性が高く、資本金が増えても大丈夫ということであれば使う価値のある方法とも言えます。

 

個人所有の不動産を法人へ移すメリット

法人の方が節税になることがある

個人事業主は「所得税」、法人は「法人税」がそれぞれ課せられます。

 

税額の決め方として、所得税は「累進課税制度」で所得が増えれば増えるほど所得税の税率も5%~最大45%と上がるため、税額も大きくなります。

つまり高所得者ほど税金は重くのしかかるものになります。

 

一方で法人税は資本金1億円以下の中小企業であれば800万円までは「15%」、800万円を超える部分については「23.2%」となり、それ以上税率は上がりません。

 

例えば個人所有不動産の場合、課税所得が800万円の所得税の税率は「23%」となり、控除額を引くと税額は120万4000円になります。

仮にその不動産を法人名義にした場合、資本金1億円以下であれば不動産所得にかかる法人税は「15%」。税額は120万円となり、個人で持つよりも税額を抑えることが可能になります。

サラリーマン投資家のように不動産収入以外に別途給与所得がある場合など、条件によっても変わってきますが、目安としてだいたい「課税所得が800万円」を超えると法人の方が節税のメリットが受けやすくなると言えます。

 

参照

 

相続税対策になる

個人名義の不動産は相続が発生すると、その財産に対して相続税が課税されます。

法人になると、不動産(財産)の所有が個人ではなく法人の所有になるため個人の相続とは関係ない扱いになります。

これにより相続税を抑えることが可能になります。

 

なお相続税は相続発生から10か月以内に申告、納税が義務であり、また納税する際は現金一括が原則になっています。

 

そのため相続する財産に現金が多い場合は問題ありませんが、不動産など現金以外の財産が多いと現金一括での納付が原則である相続税の納税が難しくなるので注意しましょう。

相続性の申告



経費に使える幅が増える

個人事業主の場合は収入から経費や控除を引いた額が「所得(課税所得)」として課税されます。

そのため個人事業主の節税においては経費の計上は節税において大きなポイントです。

 

法人も経費の計上により節税につながるのは同じですが、大きな違いは「経費に使える幅が個人事業主より多いこと」です。

 

実際に法人ならではの経費としては、

 

  • ・給与
  • ・役員報酬(「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」のいずれに該当する場合)
  • ・退職金
  • ・生命保険(個人事業主の場合は所得控除の対象)
  • ・法人で車を購入した場合の減価償却やガソリン代や車検代(個人事業主の場合はプライベートと事業で分ける必要がある)


などがあります。

 

経費の観点から見ると経費の幅が広がるので、節税の幅も法人になるとより広がるといえます。

ただしすべてが経費になるわけでなく限度があります。

 

ただ、経費については複雑なため不安な人は税務署や税理士などの専門家に相談することをオススメします。

 

個人より法人の方が融資を受けやすいことが多い

事業規模の拡大などで金融機関から融資を受けることがあるかもしれません。

 

個人としても融資を受けることは可能ですが、法人と比べるとどうしても信用力が劣りますし、どんなに良くても2~3億円くらいが個人で受けられる融資の限界のようです。

 

もちろん法人は絶対に融資を受けられるとも言い切れませんが、「不動産の事業(不動産賃貸業)を行っています」と伝えると、個人より法人の方が信用が高い傾向にもあるためより多額の融資や追加の融資が受けやすくなります。

 

ただし、法人としての経営の状況や実態なども加味されるため、法人として事業がちゃんと成り立っていることは前提です。



個人所有の不動産を法人へ移すデメリット

社会保険料などコストが増える

法人になると社会保険への加入が必須です。

従業員の厚生年金や健康保険の負担があるからです。

 

また、決算関連の業務や確定申告については税理士に依頼することが多く税理士への依頼料もかかってきます。

 

さらに、法人設立時にかかるコストも多く、

 

  • ・印紙税や登録免許税などの法定費用
  • ・資本金
  • ・司法書士への手数料(登録手続きなどで司法書士に依頼する場合)

 

などがあります。

 

場合にもよりますが、合同会社で11万円以上、株式会社で25万円以上が設立の際にかかるため、法人設立については設立するにもコストがかかることは意識しましょう。

 

決算に関する手間が増える

個人も法人も年間の所得を把握、計算し、確定申告をする点は同じです。

 

個人の場合は貸借対照表(バランスシート)、損益計算書などは会計ソフトで自力でも作成は可能ですが、法人の場合はこれに加えて法人税申請書という書類が必要です。

 

法人税申請書は個人の確定申告よりもかなり複雑なため、自力での作成は難しい場合もありますし、作成の手間もかかります。

 

その複雑さから、法人税申請書などの経理業務に詳しい人を雇用するか、税理士に依頼するケースが多く見受けられます。

 

赤字になったとしても法人住民税は払う必要がある

個人事業主の場合、所得が一定額以下であったり、赤字の場合は所得税や住民税は発生しません。

これも法人の場合は異なってきます。

 

法人は仮に赤字になったとしても、法人住民税は発生するので注意が必要です。

法人住民税の細かい額は自治体などにより異なりますが、年間7万円前後かかります。

融資を返済中の物件では手数料にも注意

融資を利用して購入した物件の場合、返済が終わっていなければ繰り上げ返済の手数料や、法人で借り換えるのであればその際の事務手数料が発生します。

節税目的で名義変更したのに、思ったより節税のメリットを受けられなかったという可能性もありますので、諸経費まで含めて検討をする必要があります。

 

所有している不動産を個人名義から法人名義へ移すタイミング

すでに不動産関連の収入を得ている場合は、個人の所得税と法人の法人税を比較することがポイントになってきます。

 

先ほども触れたように所得税は累進課税で、所得が増えれば所得税率も段階的に最大45%まで増えていきます。

一方で法人税は普通法人であれば15%と23.2%の2段階のため、個人より法人の方が税金面でお得になるタイミングがあります。

 

そのタイミングが課税所得が800万円で、800万円を超えると個人の所得税より法人税の方が税率は低くなります。

そのため、ご自身の所得をもとに判断することも一つのポイントになります。

 

また、不動産を個人名義から法人名義に移す場合は、登記費用や不動産取得税がかかります。

 

これらは不動産の数が多ければ増えてきますので、将来的に複数の不動産を扱うのであればコストはかかりますが早めに法人に移した方がいい場合もあります。

 

とはいえ、個人名義から法人名義に不動産を移すタイミングの見極めは専門知識がないと、判断は難しいものです。

難しく感じたり不安に感じた方は、専門家に相談だけでもしてみることをおすすめします。

 

まとめ:
不動産を法人名義に移すのはメリットもデメリットもある

 

  • ・不動産を個人から法人の所有に移す方法としては3つ、「贈与」「売買」「現物出資」がある
  • ・贈与は贈与税が多額になるため現実的でなく、売買や現物出資が一般的
  • ・ただし現物出資は不動産鑑定や登記などの手続き費用が高額になる
  • ・課税所得800万円以上なら個人の所得税より法人税の方が税率が低くなる
  • ・個人と比べて法人は給料や生命保険など経費に使える幅が広い
  • ・ただし法人は社会保険料などコストがかかる
  • ・法人は決算に関する手間が増える
  • ・法人は赤字になったとしても法人住民税は払わなければいけない
  • ・個人名義から法人名義に移すタイミングは、課税所得のラインに加えて諸経費などのコストもかかるため、専門家でないと判断は難しい

 

不動産を個人から法人に移す場合、手間はかかりますが、何より法人にすることのメリットもデメリットも両方あります。

不動産を法人に移すことで節税などのメリットはありますが、法人を運営する以上はコストも個人より増えるためデメリットもあります。

 

節税や法人運営、個人名義から法人名義に移すための手続きなど考えるポイントがたくさんあります。

お悩みの方や不安な方はぜひ専門家に相談してみてください。

 

 

この記事の監修

杉浦 祥太
北辰不動産株式会社 流通事業本部
 宅地建物取引士
 公認 不動産コンサルティングマスター

 

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