調査方法から選択肢が広がる外壁大規模改修工事 店舗ビルの事例を紹介

1Fにはいつも行列が絶えない人気ラーメン店が入居している1977年築RC造5階建の商業ビル。今回実施した外壁大規模改修工事のドローン調査やカーボピンネット工法について、工事を担当した株式会社アドバンス・シティ・プランニングの中渡瀬さんに解説していただきました。

 

現場担当者
株式会社アドバンス・シティ・プランニング
建築課主任
中渡瀬 ケンジ

1990年、ペルー生まれ横浜育ち
建築一筋17年の元大工で元ムエタイ戦士
一級建築士の学科に余裕で合格後、飲み歩きが祟り二次試験製図でまさかの不合格
夜な夜な中目黒界隈に出没する日本語とスペイン語のバイリンガル

─── トラストリンク第3ビルの外壁工事の実施の経緯についてお伺いします。

中渡瀬:まず前提として、歩道や車道に面しているタイル張りの外壁は、10年に一度は特定建物定期検査の実施により打診して調査しなければならないという法律があります。このビルに関しては対象ではないものの、所有者の管理責任という観点から、調査と修繕は必要でした。また1Fに蒙古タンメン中本という人気店が入居していて、いつも朝から行列しているんですね。万が一並んでいる人にタイルが落下すると大事故になってしまいます。そこで至急調査してほしいという依頼がありました。調査方法としては打診調査かドローンを使った赤外線調査の2種類がありますが、今回はドローン調査を実施しました。

─── ドローン調査を選択した理由は?

中渡瀬このビルの場合ですと、上からブランコでぶら下がる打診調査だと、下にはお店に並んでいる人や通行人がいるため、万が一を考えると危険な可能性があります。またこのくらいの規模のビルの場合、半日以上時間がかかる打診調査に対してドローン調査だと30分程度で終了するので、テナントさんにとってもメリットが大きいです。

─── ドローン調査を行うとどのようなことが分かりますか。

中渡瀬:今回の調査の結果、1300枚くらいタイルの浮きがあり、またタイルの裏側に水分を含んでいることが判明しました。赤外線は温度差を検知できるので外からは見えなくても、裏側に水分を含んでいることが分かります。

─── ドローン調査の費用は打診調査に比べて違いがありますか。

中渡瀬:足場を組まないと調査できないような規模の建物の場合は、ドローンの方が足場がない分、費用負担は少ないです。足場の設置が不要な場合は費用的にはそんなに変わりませんが、今回のような下にお客さんが並んでいる状態で上からブランコで釣り下がって作業するリスクがないのと、かかる時間が短くて開店前に終えられたのが大きいですね。ドローン調査はこれからどんどん普及していくと思います。

─── 逆に打診調査の方が向いている場合はありますか。

中渡瀬:今回の調査は、実は建物の正面以外は打診で行っています。というのも、隣のビルとの隙間が非常に狭くて物理的にドローンを飛ばせないからです。狭いところは従来通り、人による目視や打診じゃないと成り立たないケースがあります。今後も建物が密集しているような場合では、打診調査も引き続き行われていくと思います。
ちなみに冒頭にもお話しした特定建物定期検査は、道路に面していない部分は義務ではありません。ただオーナー様からすれば、義務ではなくても建物の劣化を放置することになってしまいかねませんので、調査を希望されることが多いです。実際にこの建物でも側面部分で爆裂(鉄筋コンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、その圧力でコンクリートが内側から押し出されてひび割れたり剥がれたりする劣化現象)が見られました。

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─── 補修工事が必要であることが裏付けられたわけですね。

中渡瀬:そうです。タイル張りの補修工事は通常であれば張り替えが一般的なのですが、やはりタイルの色に差が出てきたり、見た目の継ぎはぎが目立つ場合があります。今回のように1300枚もあると、タイルの張り替えだけで費用が1000万円以上かかってしまうことに加え、いかにも「補修しました」と言う感じが出てきてしまいます。それであれば、費用としてはタイルの張り替えよりも多少高くなるのですが、大体同じくらいの費用で済み、全く違う見た目できれいに仕上がることに加えて10年間の剥落保証がつく「カーボピンネット工法」という補修工事の方がメリットが高いと考え、オーナー様(北辰不動産)にはこちらをおすすめしました。 

─── カーボピンネット工法について詳しく教えてください。

中渡瀬:タイルの上からカーボン素材のネットを建物に貼り付けます。アンカーピンで躯体層に固定し、その上からモルタルを塗って、さらに塗装で仕上げます。アンカーピンはステンレス製なので水にも強く耐久性に優れています。

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カーボピンネット工法のネット
─── タイルごとネットでカバーするんですね。

中渡瀬:そうです。カーボピンネット工法の仕上げには今回のような塗装の他にも、石目や木目調の薄いパネルなどバリエーションがあります。今回の場合は外壁の色をどうするかも悩みまして、1Fの中本さんのファサードの印象に寄せたブラウンなど3パターンくらい提案しましたが、最終的には、将来テナントが入れ替わった場合も想定に入れ、グレーの落ち着いた配色になりました。

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after
─── 中本さんのファサードがかなりインパクト強めですけれど、最終的にバランスよく落ち着いた感じがしますね。工事期間はどれくらいかかったのですか。

中渡瀬:約2ヶ月くらいです。

─── その間の中本さんを含め、入居テナントさんの営業との兼ね合いはどうされたんですか。

中渡瀬:このカーボピンネット工法の弱点としては、コンクリートの躯体に穴を開けるので工事の音が大きいことなんです。ですからテナントさんには事前に音が出る日時を詳細にお知らせしました。中本さんは途中休憩なしの通し営業なので特に気を遣いましたが、工事についてはご理解いただいて問題なく進めることができました。他には上階にはクリニックが入っているので、一番音が出る工事のタイミングはクリニックの休診日にするなどの調整を行いました。

───このカーボピンネット工法は一般的なものなんですか。

中渡瀬:大体2000年くらいから普及してきた工法で、いくつかのメーカーで行われています。改修工事では、だいぶ一般的になってきていると思います。

─── とはいえ比較的新しい工法なんですね。

中渡瀬:新しい部類に入りますね。その分費用が高めなのですが、その代わりに保証がつくメリットがあるので、保証なしでタイルを張り替えるのに比較すると、オーナー様にとっては安心材料になるのではないでしょうか。

─── カーボピンネット工法がなかったらタイルの改修方法は張り替え一択ですか。

中渡瀬:張り替え、もしくは浮いているタイルの目地にステンレスピンを打って、エポキシ樹脂を注入して下地と接着するエポキシ樹脂ピン工法が一般的です。

─── 従来の工法だとタイルそのものは変わらない改修方法で、見た目をガラッと変えることができるようになったのはわりと最近のことなのですね。

中渡瀬:外壁をタイルにするのが流行ったのが80〜90年代あたりです。それらのビルが大規模改修工事の時期を迎えたことにより、カーボピンネット工法が開発された経緯があります。今は金属パネルやガラスのカーテンウォールが流行っていますが、これらはメンテナンスの面でも比較的手間がかからないことも支持されている理由の一つです。タイルは高級感や重厚感があり、はじめはかっこいいのですが、経年劣化とともに剥がれて落ちるリスクが増加していきます。タイルの仕上げを維持するのではなく、今回のような工法を採用することが徐々に増えてきています。

───仕上げは塗装以外に選択肢はありますか。

中渡瀬:塗装以外にシート張りもできます。石のような重量物だと保証の対象外になってしまいますが、モルタルの下地に付けられる軽量のものであれば基本的には可能です。シートは柄のバリエーションが多岐に渡るので、見た目の選択肢が広がります。最近のオーナー様はデザイン面だけでなく、10年後、20年後の将来的なメンテナンスのしやすさを考えて、新築時に金属パネルやガラスのカーテンウォールを選択される傾向があります。カーテンウォール仕上げの場合は、貼り付けるのではなく金属の下地に引っ掛ける形になるので、打診調査も不要になります。金属下地はイニシャルコストはかかりますが、長持ちするし軽量構造なので地震に強く、オフィスビルでよく選ばれます。

─── なるほど、オーナー様にとっては改修工事の調査方法から仕上げまで様々な選択肢があるのですね。どうもありがとうございました。
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