まずは一般的な瑕疵のおさらいから。
●瑕疵(かし)瑕疵とは、通常一般的には備わっているにもかかわらず本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わっていないこと。 不動産においては、建物の破損や土地の土壌汚染、地盤沈下などの物理的瑕疵だけではなく、用途地域違反や本来車庫である部分を店舗に転用していることで容積率違反を起こしている(法律的瑕疵)場合、過去に事故が起こった物件(心理的瑕疵)なども瑕疵にあたります。 |
そして、買主が通常の注意を払っても知り得ない瑕疵が存在する可能性があります。それが「隠れた瑕疵」です。
●隠れた瑕疵買主が取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できないような瑕疵、あるいは瑕疵を知らず、かつ、知らないことに過失のない場合の瑕疵(買主の善意無過失)を指します。不動産流通経営協会が会員向けに作成した標準売買契約書では、以下の4点が挙げられています。 (1)雨漏り (2)シロアリの害 (3)建物構造上主要な部位の木部の腐食 (4)給排水管(敷地内埋設給排水管を含む)の故障 |
旧法では、上記のような隠れた瑕疵について責任を負うことを瑕疵担保責任と呼んでいました。
つまり、買主がすでに知っている瑕疵、売主から知らされている瑕疵、普通の注意をすることにより知りえた「隠れていない」瑕疵については瑕疵担保責任の対象とはなりませんでした。
契約不適合責任とこれまでの瑕疵担保責任との違い
では、瑕疵担保責任が2020年4月1日以降、契約不適合責任に変わることで具体的に何が変わるのでしょうか。
まずは責任が発生する期間が変わりました。
瑕疵担保責任が契約までに存在した瑕疵が対象になるのに対し、契約不適合責任は物件に引き渡し時までに存在した不適合が含まれます。責任が発生する期間が延びるので、売主が不利になったと言えるでしょう。
加えて、不適合(瑕疵)にとなる範囲が変わりました。
これまで瑕疵担保責任といえば上記のような「隠れた瑕疵」だけが対象でしたが、契約不適合責任では、隠れているかではなく、契約の内容に含まれているかが条件となります。瑕疵担保責任を問う裁判では「隠れていたのか隠れていなかったのか」が争点になることが多かったのですが、契約不適合責任では、契約の内容に含まれているかが争点になるため、より分かりやすくなったといえます。契約の内容に含まれているかの判断は契約書への記載の有無が大きな基準ですが、仮に契約書への記載がなくとも、その物件を保有する目的として必要な機能であると判断されれば、契約不適合となる可能性がありますので注意が必要です。
さらに、買主が取り得る手段も整理・拡充されました。
旧法上の瑕疵担保責任では、主に契約解除や損害賠償請求が問題となっていました。これに対し、2020年4月1日以降の契約不適合責任では、契約の内容に適合しない目的物が引き渡された場合、買主は修補などの追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除を検討できるようになりました。
そのため、単に「隠れた瑕疵があったか」ではなく、「契約で予定されていた種類・品質・数量に適合していたか」が、より重要な確認ポイントになります。
また、買主の請求権期間についても変更がありました。
それまでは、買主はその責任を追及できる期間内で瑕疵を知った日から1年以内であれば責任を追及することができました。具体的にはその瑕疵によって損害があったことの証明と、具体的な契約解除や損害賠償請求の権利の行使を1年以内にする必要があるということです。
それが1年以内に売主に当該不適合を通知すれば良くなったため、買主があわてて権利の行使をする必要がなくなりました。
これまでの変更点は、買主が有利(売主が不利)になる項目でしたが、買主が不利になる変更もあります。
それが、買主が権利を行使できる期間です。これまでは買主が権利を行使することができるとき(引き渡し)から10年間でしたが、民法の改正により買主が自らの権利を行使できると知ったとき(契約不適合を知ったとき)から5年という規定が加わり、そのどちらかの早い期間が満了すると債権が時効で消滅することになりました。
例えば引き渡し3年目で契約不適合を知ったとすると、そこから5年以内に損害賠償などの権利の行使をしないと時効になってしまいます。本来の引き渡しから10年という規定より短くなってしまうので、この点については買主が不利になったと言えるでしょう。
民法改正で瑕疵担保免責は無効になる?
結論から言うと、今回の民法改正によって「契約不適合免責(瑕疵担保免責)」が無効になることはありません。まずは、契約不適合責任免責について簡単に説明します。
●契約不適合責任免責とは(これまでの瑕疵担保免責・瑕疵担保責任免責)
契約不適合責任は、当事者間の合意により、一定の範囲で免除・制限できる場合があります。これを一般に「契約不適合責任免責」と呼ぶことがあります。
ただし、免責の可否や範囲は、売主・買主の属性や契約内容によって異なります。たとえば、売主が宅建業者で買主が宅建業者でない場合には、宅建業法上、買主に不利な特約には制限があります。
また、販売資料などで「現況有姿」「現状有姿」と記載されている場合でも、それだけで直ちに契約不適合責任が免除されるわけではありません。現況有姿は、主に現在の状態のまま引き渡すことを示す表現であり、責任の有無や範囲は、売買契約書・重要事項説明書の記載内容を確認する必要があります
契約不適合責任を免責・制限する条件が付されている物件では、そのリスクが価格に反映されている場合があります。
売る側の立場になってみれば、物件を売った後にも見通しが難しい経済的リスクを負うことは避けたいのが当然の心理です。特に売主が個人で不動産や建物に関する知識に不安がある方や早期売却を考えている方であればなおさらです。
ただし、価格面だけで判断するのではなく、引渡し後に想定される修繕費、建物の利用予定、解体・建替えの有無などを踏まえて、総合的に検討することが重要です。特に中古物件では、建物状況や設備の状態、法令上の制限などを事前に確認しておく必要があります。
●契約不適合責任は任意規定
法律の規定には「任意規定」と「強制規定」があり、 任意規定に関しては、契約書にその規定に関する記述がない場合は民法の条文を適用されますが、契約書に記載があればそちらが優先されます。
契約不適合責任に関する規定は「任意規定」とされているため、売買契約書の内容によって契約不適合責任の適用を排除・制限することが可能となります。
ただし、契約不適合責任を免責・制限する特約が常に有効になるわけではありません。
たとえば、宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者でない宅地・建物の売買では、宅建業法40条により、目的物の引渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法の規定より買主に不利となる特約は制限されます。
また、売主が契約不適合にあたる事実を知りながら買主に告げなかった場合には、免責特約があっても責任を免れない場合があります。したがって、免責特約の有無だけで判断せず、売主・買主の属性、契約書・重要事項説明書の記載、物件の状態を確認することが重要です。
契約不適合責任免責の物件、買って大丈夫?
契約不適合責任免責(瑕疵担保免責)だからといって、必ずしも重大な欠陥が隠されてのではないかと疑心暗鬼になる必要はありません。
一方で、建物の状態にどのようなリスクがあるのか、そのリスクが購入後の利用目的や収支にどの程度影響するのかを慎重に確認することは重要です。特に、価格や利回りだけを見て判断すると、購入後の修繕費や改修費が想定以上にかかる場合があります。
自分の目で建物の状態を確認するだけでなく、信頼できる仲介会社への相談や、必要に応じたインスペクションの活用も検討するとよいでしょう。
本記事は、契約不適合責任に関する一般的な考え方を紹介するものです。個別の取引における責任の有無・範囲は、売主・買主の属性、契約書・重要事項説明書の記載内容、物件の状態、取引の経緯によって異なります。実際の売買契約にあたっては、必要に応じて宅地建物取引士、弁護士等の専門家にご確認ください。